2018年9月19日 朝日新聞

色覚バリアフリーを進める東大准教授 伊藤 啓さん


 台風や大雨の際にテレビで目にする「特別警報」のエリアは、どのチャンネルも紫色で表示している。色覚バリアフリーを唱える、この人の活動がきっかけだ。
 強度の色覚障害があり、緑と茶色やオレンジが見分けられない。高校の美術部で黄緑の夕焼けを描き、「シュールだ」と褒められた個性は、脳研究を専門にした東大の学生時代、壁にぶつかった。
 当時、実験に使うハエの遺伝子操作の有無を見分けるのは、目の色だった。色の違いが分からず、友人を頼るしかない。「この分野の研究を諦めかけた」
 だが、誰でも見分けやすい紅白の目をしたハエが普及した。色覚障害がある海外の研究者が開発したと聞いた。「困ったら、世の中のしくみを変えればいいんだ」
 2002年に東大に赴任し、発表資料の配色統一を研究者に呼びかけた。文具メーカーやデザイナーからの協力依頼が相次いだ。
 11年にはオレンジや赤などばらばらだった大津波警報を、テレビ各局と協力して紫に統一。気象庁が翌年、大雨や暴風などの気象情報で足並みをそろえた。「最も危険」が紫なのは、従来の赤の警報を残しつつ、一部の人が見分けづらいオレンジを避けるためだ。
 国内に色覚障害者は300万人以上。「バリアフリーは障害者が困るからやるのではない。誰にでも確実に理解してもらうために必要なんです」   文・写真 小畑龍之

【参考】 「津波速報 色を統一 TV 色覚障害者も見やすく」(2011.8.18 朝日新聞)