1994年6月9日 朝日新聞

支障ない職種が大半 入試の門前払いは激減

色覚異常者になお残る就職制限

 色盲色弱が治ると宣伝していた医院を批判した1980年の本紙記事に対し、医院が名誉毀損(きそん)だとして訴えていた訴訟が7日、最高裁による上告棄却の判決で決着した。日常生活にはほとんど支障がない色覚異常の人たちがこの「治療」にすがった背景には、入学試験や就職の際に、厳しい差別があったからだ。その後、入試差別は大幅に減った。しかし、就職差別はまだ残る。 
                                                  田辺 功(編集委員)

 文部省は昨年4月、全国の大学学長らに対し、高校から提出する調査票から「色覚」欄をなくすよう通達した。残るのは防衛大学校など、文部省所管外の5大学校だけになりそうだ。
 就学差別撤廃のきっかけを作り、今年1月に朝日社会福祉賞を受けた名古屋市の眼科医、高柳泰世さんによると、1986年度には、466大学中73校(16%)が入試要項で制限、門前払いしていただけに、この間の変化は大きい。
 就職差別は、減りつつあるが、まだ残っている。ある国立大学への求人募集要項をもとにした高柳さんの調査では、「制限なし」は86年度は87%で、93年度は93%だった。
 一方、日本障害者雇用促進協会障害者職業総合センターが3月にまとめた色覚異常者の職業上の諸問題に関する調査研究報告書によると、91年度の私立大学の求人票では、まだ3割前後の制限があった。
 色覚異常者に厳しいのは、印刷、出版、放送、衣服など色を扱う企業。しかし、その根拠は必ずしも合理的なものではなさそう。
 同じ職種の会社でも、制限したりしなかったりしているし、色覚異常でも運転免許が取れるのに、「運転が必要だから」と、誤解に基づいて制限している会社もあった。
 警察官、消防士、自衛官、モーターボート選手、競馬騎手などの職業や毒物劇物取扱責任者資格などは、「犯人の服装や車の色の識別が必要」「火災の煙の色の判別」などの理由で、就職制限している。しかし、これら職業から、全ての色覚異常の人達を制限し、排除する必要があるとは思えない。
 色覚異常は遺伝的なもので、日本人男性の4.5%、女性の0.2%いるとされる。一般の人は、色覚異常者は白黒テレビの世界に住んでいるかのように思いがちだが、そんな全色盲の人はまれだ。
 大半の人は赤、または緑の感じ方が鈍いため、色の組み合わせによっては見えにくい色があるといった程度なのだ。
 確かに強度の色覚異常は、色を識別しにくい。しかし、そんな人たちが、わざわざ厳密な色の識別能力を求められるような仕事をめざすだろうか。
 一方、ごく軽い異常なら、本人が色以外の情報をフルに生かすよう努力すれば、ほとんどの仕事を十分こなすことができる。
 現に、色覚検査表を暗記して検査をすり抜けて、警察官、自衛官になっている人もいる。医師や教師、学者になった人も多い。先月旗揚げした「日本色覚差別撤廃の会」の会長である永田凱彦・沖縄県立中部病院部長もそんな一人だ。
 欧米では日本の倍くらい色覚異常者がいるが、入試や就職での門前払いはまずない。実地にテストして勉学や仕事ができるかどうかを確認するのが普通だという。それが当然だ。
 むしろ、社会の側がすべきことは、交通信号の色を色覚異常の人にも見分けやすくするとか、カラー伝票にちょっと印をつけるなど、色覚異常の人たちのハンディキャップを軽くすることだと思う。
 永田さんたちは、社会の不当な差別、その出発点となる学校での色覚の一斉集団検査の見直しなどを求めていくという。
 こうした色覚検査は、学校保健法施行規則の定期健康診断項目になっているが、日本だけのものだ。本人のショックなどを考えれば、これも、プライバシーに配慮した個別検査に改める時期だろう。

(朝日新聞 1994年6月9日 記事)