2013年10月21日 朝日新聞

学校の色覚検査 再開には児童のケア不可欠
色覚問題研究グループ ぱすてる 運営人 矢野 喜正

 学校健康診断における色覚検査が事実上廃止されて10年。先天色覚異常を抱える人の進路トラブルが顕在化していると報じられた(9月19日付本紙)。支援活動を長年行ってきた経験から、色覚検査制度の課題を述べたい。
 先天色覚以上は、俗に「色盲」「色弱」などと呼ばれ、その生活実態は世間から誤解を受けている。自身の色覚特性をある程度理解できていれば、日常生活や仕事に大きな問題は生じない。だが、自他の色彩感覚の相違を自力で把握するのは極めて難しいため、眼科検診は有用だ。2002年の制度変更当時から、検査廃止は自覚機械の喪失につながると指摘されていた。
 日本眼科医会は、学校健診制度の中での色覚検査の実施再開を働きかけている。だがこの10年で、学校における当事者への対応は後退した。単なる再開では「失われた10年」を取り戻せないだろう。
 検査実施にあたっては、児童生徒および保護者に対する十分なケアが欠かせない。学校は事前に、全保護者へ検査目的を正しく伝え、医学的検診が最適な方法であることを知らせておく必要がある。プライバシー保護を確約し、そのための検診環境を整備した上で、受診希望者を募って実施すべきだ。

 検査結果は後日、学校医か養護教諭から、保護者へのみ通知するのが望ましい。児童生徒に告知するか否かは家庭内で議論すべきこととするのが妥当だ。先天色覚異常ならその遺伝が、後天色覚異常ならその原因疾患への対処が、また別の問題となって保護者を悩ませる可能性があるためだ。当事者の存在を教科教員に知らせるか否かも、保護者の判断に委ねるべきだ。
 カウンセリングを行う養護教員には、眼科や遺伝の知識に加え、就職、進学、資格取得に関する情報も必要だ。一方、教科教員は、どの学級にも1人以上の当事者が存在すると想定し、授業の進行方法や、進路相談を受けた際の対応方法について、現実的な技術を獲得しておくべきだ。
 また、教員の中に当事者が含まれていることもある。そうした教員がカミングアウトできるようであれば、人生経験を当該の児童生徒と共有し、特に進路についての可能性を一緒に考えられる、よき相談相手となるだろう。
 異常のような環境整備を学校主体で展開できれば理想なのだが、実際のところ、10年の制度的空白は痛い。まず、養護教諭と、色覚外来の臨床経験が豊富な眼科医が連繋し、知識共有を図る場を設けることが期待される。