2021年2月9日 朝日新聞

学校でできる「色のバリアフリー」って?


色覚の特性考慮 案内図見やすく
 「色のバリアフリー」が、教育現場に少しずつ広がっている。色の感じ方に特性のある人に配慮し、だれでも識別しやすい色合いを心がけようという取り組みだ。

 福岡市西区の九州大伊都キャンパスに昨春、新しい案内図が登場した。建物は淡い紫色、敷地は黄緑色で彩られている。九大の教職員でつくる「キャンパスバリアフリー検討研究会」や活動に携わる学生が手がけた。
 研究会のメンバーで大学院芸術工学研究院の須長正治教授(色彩・視覚科学)によると、従来のキャンパス案内図は建物はピンク、敷地は濃い緑に配色されていた。色の感覚(色覚)に特性がある人のなかには、似た色で構成されたように見えてしまう人もいて、情報が適切に届きにくかったという。
 そこで研究会は、色覚に特性があっても区別できる配色を基にした「従来とは逆転した発想」で案内図をつくることを発案。色覚に特性があっても区別できると考えられる色の範囲内で案内図をデザインすることにした。須長教授の研究室で調査・開発し、一般の人にもなじみのある組み合わせも意識した。
 今回の取り組みに関わった、色覚に特性がある男子学生(25)は「特性の有る無しに関わらず、誰にとっても見やすい仕様が標準な社会になることが一番よい」という。
 すべての人が等しく使えるユニバーサルデザインの取り組みを学内に広げていくため、いまは活動に携わった学生が教職員向けに配色マニュアルの製作を進めている。講義で使う資料づくりの参考にしてもらうつもりだ。

グラフやチョーク 色分け工夫を
 すべての色は赤、緑、青の三つの光の組み合わせでつくることができる。人間の目の網膜には、色に関係する細胞が3種類あり、それぞれの細胞の反応で色を感じている。いずれかの感度が低いと、多くの人とは違う色合いに見える。医学的には色覚異常といわれる。
 こうした特性を先天的にもつ人は、ごく軽度から重度までを含め、日本人男性の20人に1人、日本人女性の500人に1人とされる。学校ならクラスに1人はいる計算だ。
 日本眼科医会の常任理事で京都市の眼科医、柏井真理子さんは「クラスに色覚異常の特性をもつ子がいることを前提にして、活動してほしい」と訴える。同会は2019年、教員向け教材「学校における色のバリアフリー」をつくり、ウェブサイトに掲載している。
 それによると、例えば「赤と緑」「茶と緑」「青と紫」「ピンクと白・灰色」「緑と黒・灰色」は、人によっては見分けにくい。円グラフを色分けしても違いが分かりにくい子がいるかもしれない。
 だから色だけでなく、形や大きさ、模様なども変える。印刷物なら白黒でコピーしてみて、判別できるかチェックする。黒板では、できるだけ白と黄のチョークを使う。ホワイトボードなら青がおすすめ。黒と赤と緑が同じように見える人もいるので「青以外」として区別せずに使う。
 教科書は色覚に特性があっても対応できるよう改善が進んでいる。一方で柏井さんが懸念するのは、コロナ禍で加速する教室のICT(情報通信技術)化だ。パソコンやタブレット端末は黒板やホワイトボードと違い、簡単にたくさんの色が使える。安易に使う色を増やさず、明暗や模様の違いで分かりやすくしてほしいという。
 文部科学省健康教育・食育課によると、かつては学校の定期健康診断で色覚検査をするよう定められていたが、03年度から必須でなくなった。希望者は受けられることに加え、色覚に特性がある人に配慮するよう周知を図っているが、徹底されているとはいえない。
 京都府教育委員会は14年度から、新任教職員の研修で、色のバリアフリーについて指導主事から必ず説明することにした。柏井さんは「色の見え方は、もともと一人ひとり違う。特性のある子どもがつらい思いをするのは避けたい。教育に携わる大人は、多様な色の見え方について理解を深め、さりげなくサポートしてほしい」と話している。 (横川結香、渡辺純子)

■学校における色のバリアフリーのポイント
 ・色覚に特性のある子がいるという前提で活動する
 ・色だけで違いを説明せず、大きさや形、模様なども工夫する
 ・カラーの印刷物は白黒でコピーしても判別できるかチェックする
 ・黒板では白と黄のチョークを使う。赤や青は下線や模様にとどめる
 ・ホワイトボードでは主に青のマーカーを使う。赤と緑と黒は「青以外」として使う