2022年1月20日 朝日新聞 夕刊

【一語一会】いいなあ、人と違う色が見られるんだから タレント 小堺一機さん 父・秀男さんからの言葉
「できない」より「何ができるか」


 人生は突然、暗転した。。
 「あなた、色弱ですね」。中学2年の検診で突然告げられた。絵を描くのが好きで、デザインを学べる都立工芸高校に絶対行く。そう決めていたのにーー。当時は色弱だと試験を受けることができなかった。
 「人生で初めて、世の中から道を閉ざされた。寂しくて、悲しくて」。明るく楽しく生きてきた少年の心は、みるみるすさんでいった。
 ある日の夕ごはん時、
料理人の父がいつも通りのざっくばらんな調子で言った。「いいなあ、お前、人と違う色が見られるんだから」
 「聞いたときは『もうちょっと気を使えよ』と思いました。でもそれからびっくりするくらいに、気持ちが楽になっちゃった」。商業高校に成績トップで入学し、生徒会長も務めた。つらいとき、つらい方向からではなく、物事がひらけたほうから見る。父の言葉は道しるべとなり、後の人生をひらいていく。
 フジテレビの昼のバラエティー「いただきます」の司会に28歳で抜擢された。ゲストは個性豊かな「おばさま」ばかり。生放送では気は抜けない。毎晩、自宅で必死に話すことを考えて、本番に出すがまったくウケない。放送開始から数カ月たち、視聴率は地をはっていた。
 「これ以上、落ちることはない。準備をしてもダメなんだから、その場で起きたことに反応していこう」
 そう決めた2日後から、ゲストの声がよく聞こえるようになってきた。その話のおもしろいこと、おもしろいこと。「大間のマグロが目の前にあったのに、からっからのメザシで勝負しているようなものでした」
 当意即妙、軽快な司会ぶりがゲストの個性とトークを引き立たせて番組は大人気となり、後継の「ごきげんよう」も合わせて31年続いた。
 大病を患ったから「いいなあ、健康ってありがたい」と思える。元気が出ないときも、おもしろいことが言えなかったときも、「いいなあ、そんな時もあるよ」と考える。
 「できないことで心をいっぱいにするより、できることに目と心を向ける。『いいなあ』って、派生するんですよ」。そうやって多くの人の心を明るくし、自身の人生も好転させてきた。 (斎藤健一郎)