2015年6月18日号 週刊文春「病院情報ファイル2015」

医療ユーザー編 学校での色覚検査の意義
いったん廃止された色覚検査に必要性が! 制度に完璧性求めず、うまく活用を。



 以前は小学校で行われていた石原色覚検査??モザイク模様の数字を読む色覚検査はもともと徴兵検査用のものといわれる。
 色覚異常の人の色の見え方は、例えば緑の木に生える赤いバラやつつじの花が木々ににじんで茶色っぽく見える、あるいは緑色とピンクなど補色関係にある色が似た色に見える、色見本やクレヨンなどの判別が難しいなど。緑の黒板に赤いチョークで書かれた文字は読みにくいものの、白いチョークなら難なく読める。当事者の自覚と正しい知識があれば、不自由は抑えうるので、諸外国では日本のように問題視はしないという。
 「プライバシーに配慮することなく『石原色覚検査表』を用いた検査が学校で行われ、友達が横からのぞき見するのも簡単だったため、無用の偏見や差別に晒されることもあり、理系分野進学の障壁にもなってきました。厚労省は二〇〇一年に就職時の健康診断項目から除外し、二〇〇三年には文科省が学校健診の項目から除外しました。検査撤廃に尽力した人たちの思いはもっともですが、その割合は、全体で三〇〇万人、男性で五%が該当し、女性は〇・二%と一見低めですが、伴性劣性遺伝するために、色覚が正常な女性でも色覚異常の遺伝子を持つ保因者は一〇%も存在するのです。
 レンズで矯正できる近視や乱視など視力の問題と違い、現時点で色覚異常を矯正する方法はありません。こういう説明は眼科専門医なら誰でもできます」
 と小中学校の校医も務めるベテラン眼科医はいう。
 検査撤廃の背景には、治せない問題を突きつけるのは残酷という考え方もある。

知らないではすまされない

 では、治せないからと言って本人が知らずにすむだろうか。腎臓病発見のための学校検尿(尿中蛋白を調べて腎臓病を検出する)でも同じことが指摘されてきた。治療法がなく、最終的には透析で救えるのだから、それまでは病気のことは知らずにいるほうがよいのではという考え方だ。が、子どもたちを仔細に診続けた仙台の堀田修医師は世界に先駆けて透析回避につながる治療法(扁桃腺摘出+ステロイド投与)を見つけ、従来の透析導入率を半減させた。学校検診の目的は効率よく問題を発見し、治療現場につなぐことにあり、その意味で IgA 腎症については十二分に役割を果たした。
 眼科分野に話を戻すと、学校検診の検査項目には視力検査もあり、この目的は殆ど近視検出のみにあったと言って過言ではない。日本人に少ないと考えられてきた遠視が現実には一〇%存在するとわかってきたのは近年のこと。二・〇などのよい視力、「見えすぎる目」を持つ子たちは手元が見えにくい可能性がある。遠視など屈折調節に詳しく、遠視問題の啓発に努めてきた梶田雅義医師によると、「港区の一部地域では、視力のよい子(視力二・〇は詳しく測れば三・〇の可能性もあり、遠視は眼精疲労や学習障害の原因になりやすい)の遠視対策としての眼科受診を、視力の低い子の近視対策と同様に勧めているそうで、巷の理解が深まってきたようです」
 色覚も視力もより精密な検査が可能になっている。不安があれば身近な眼科で相談し、遺伝関連の検査や相談は色覚に力を入れ、かつ遺伝相談窓口、カウンセリングシステムを有する大学病院等の施設を探してはいかがか。学校検診もどう活用するか、ユーザー次第ではないだろうか。 (取材・構成 恵原真知子)