2017年12月22日 日本経済新聞夕刊

色の見え方 違いは個性 「色覚多様性」アニメで啓発 大阪のNPO「まず個人差 理解を」


 特定の色が見分けにくいといった「色覚多様性」について正しく知ってもらおうと、大阪市のNPO法人がアニメーション動画を作成した。学校での色覚検査が実施されなくなって以後、人によって色の捉え方に違いがあることを知らない子供も目立つ。作品を通じて伝えようとしているのは「見え方の違いは個性」。誰もが暮らしやすい社会の一助になればと願う。

 作品は「フシギの色の国のアリスちゃん」と題した12分間のアニメーション。「自分が見えている色は実は不思議なもの」をテーマに、主人公が環境や人種のほか、配色などによっても色は違って見え、見え方には少数派と多数派があることなどを紹介する。DVDに収録し、学校などから要望があれば、出前授業に出向くなどして配布する予定という。
 色覚多様性についての啓発を続けるNPO法人「True Colors」(大阪市)が10月に完成させた。2016年夏に小学生向けの絵本を制作したところ、学校で活用されるなど好評だったため、新たに中学生を対象にした動画を作ることにした。
 約1年がかりの制作活動を中心になって進めたメンバーは、自身も色覚多様性を持ち、大阪市を拠点に活動するアートディレクター、カツミさん(43)。絵を描くことが好きで、高校卒業後はデザインの専門学校に進学したところ、写生の際、正しいとされる色が分からずに戸惑った。両親の助けも借りながら、自分に見える色と多くの人が認識する色とを一致させる訓練を地道に重ねた。
 就職した広告会社でも、色の調整や写真データの加工作業で苦労したが、デザイナーとして独立して仕事をこなすうち「独特の色使いが面白い」と評価されるようになった。「違いは個性で、強みになる」ことを確信したという。
 色覚多様性を巡っては長年、小中学校の定期健診での色覚検査が必須だったが、1995年度に小学4年時に限定。03年度以降は遺伝性で治療法がない一方、ほぼ生活に支障がないとする国の判断で、必須項目から外れた。
 同NPOによると、検査を受けた経験がないことから、近年は自身の色覚特性を把握しない子供が増え、授業で黒板の文字が見えづらいことに悩んだり、就職の採用試験などで困難に直面したりするケースも目立つようになっているという。
 高橋紀子理事長は「まずは自分の見え方を知り、色覚には個人差があると理解することが大切」と指摘。「色を区別できる補正レンズの使用や、多くの人と同様の見方に近づける配色の工夫で“色覚バリアフリー”は可能だと伝え、どんな見え方の人も肯定できる社会を目指したい」と話している。

国内の色覚多様性 男性20人に1人

 日本眼科学会などによると、先天的に多くの人と異なる色覚を持つ人は、国内に男性の20人に1人、女性500人に1人いると推定される。赤やピンクが見えにくかったり、紫と青など同系色が区別しにくかったりするケースが多い。
 日常生活では「焼き肉で生肉を食べてしまうことがある」「地図や路線図が見えにくい」といった支障が生じる人もいるという。
 入学や採用の条件として色覚を挙げる大学や企業があったが、厚生労働省は2001年、民間企業による雇用時の検査を原則廃止。鉄道の運転士や消防士、パイロットなど一部職種を除き、大部分の職業で制限はなくなった。
 日本遺伝学会は従来の「色覚異常」などの用語を「色覚多様性」に変更することを決め、11月、教育現場にも反映させるよう求める要望書を文部科学省に提出している。