2015年9月21日 読売新聞

今日のノート 違う色の世界


 自分が色覚異常であると知ったのは幼稚園児の頃だ。画用紙に木の葉を茶色に、幹を緑に塗っていて、母親が気づいた。以来、絵の具やクレヨンを使う前には、色の名前を読んで確認する癖がついた。
 それから40年、日常でさほどの不都合を感じたことはない。ただ学校で黒板の赤や紫の字が見にくく、先生に言っても改善してもらえなかったのには少々難儀した。中には、描いた絵の色を見た先生に「ふざけてるのか」と叱られ、ショックを受けた人も少なくないと聞く。
 小学校の先生が色覚異常について学ぶ取り組みが今、広がっているという。特殊なレンズを使い、色覚異常ならどんな風に見えるのか体験もする。各地で講師を務めるNPO法人「トゥルーカラーズ」(大阪市)の高橋紀子さん(68)は、ある学校で勉強会を終えた後、教頭が「僕も多くの子供たちを傷つけてきた。謝りたい」と反省の弁を述べたことが強く印象に残っているそうだ。
 色覚異常に限らず、色の見え方は人によって微妙に異なるという。自分に見える世界が常識のようについ考えてしまいがちだが、そうではないのだ。
 そう思って、色覚補正レンズで一般色覚者の世界を体験してみた。黄緑と思い込んでいた木々の葉が少し赤い。「ほんのり色づく」とはこのことか、と初めて理解した。今秋の紅葉は違って見えるかもしれない。      (社会部 岸辺護)