2022年11月2日 読売新聞 夕刊

色覚少数派 アート楽しんで 美術館に補助レンズ 普及目指す 大阪のNPO


 赤や緑など特定の色を識別しにくい「色覚少数派」の人に、アートに親しんでもらおうと、NPO法人「True Colors(トゥルーカラーズ)」(大阪市中央区)が、見え方を補助する特殊なレンズの普及に取り組んでいる。10月にはイベントで補助レンズを無料で貸し出し、普段とは違う見え方でアートを楽しんでもらった。将来的に美術館などにも常備してもらうことを目指す。 (猪原章)

 NPOによると、先天性では日本人の男性で20人に1人、女性で500人程度に1人の割合で、特定の色が識別しにくい「少数派」がいる。全国で約320万人に上るとされ、赤や緑の色が見えにくい人が多いという。
 NPOは高橋紀子さんが2011年に設立。広告会社に勤めていた時に訪れた大阪市内のレンズ製造会社で、色の見え方は人それぞれ違い、「自分が作ったポスターやイラストの色が見えない人がいる」とショックを受けたことがきっかけだった。
 「『色覚多様性』への理解を広めたい」と活動を始め、これまで小学校教諭らを対象に、少数派の子どもたちに対応した授業の進め方の勉強会を開くなど、啓発活動に力を入れてきた。
 一方で、少数派の人から「ルノワールの絵の魅力がわからない。美術館にも行かない」と聞き、その際に補助レンズを使って画集を見てもらうと「見えていなかった色が見え、こんなにきれいだと初めて知った」と感動された。高橋さんは「少数派の人も普通にアートが楽しめる手助けがしたい」との思いから、今回の取り組みを企画した。
 人の網膜にある視細胞は、光による刺激で色を知覚するが、赤青緑の「光の三原色」をそれぞれ感じる細胞の量のアンバランスが原因で、色を識別しにくくなる。補助レンズは、目に入る光の量をコントロールし、均等なバランスに調整することで「多数派」の見え方に近づけている。
 しかし、補助レンズは少数生産のため、両眼で10万円近くする高価なもの。今回、旧知のレンズ製造会社の協力で折りたたみ型の簡易補助レンズ(縦8センチ、横4センチ)の試作品(1個1万円程度)を譲り受けることができ、企画が実現した。
 大阪市北区のグランフロント大阪で10月中旬に開かれたアートイベントでは、アーティスト約120組が作品を展示。NPOもブースを出して簡易型レンズ5個を無料で貸し出すと、少数派の10人が補助レンズを使ってカラフルな絵画や立体作品を鑑賞した、
 赤や緑が見えにくいというグラフィックデザイナーの中西克己さん(48)は、普段は多数派の色の見え方を予測して色を塗り、制作活動を行っている。補助レンズを通して見た絵画に「見えない色が見えた。手軽に使えて便利でとてもいい」と笑顔をみせた、
 高橋さんは「補助レンズがあれば、少数派の人たちが敬遠しがちなアートを楽しめるようになる。役所にある老眼鏡のように、様々な美術館などに常備してもらい、貸し出せるようにしたい」と意気込んでいる。

■17年から「色覚多様性」に
 特定の色の識別が難しい「少数派」は長年、「色弱」や「色覚異常」と表現されてきた。しかし、日常生活で大きな影響はなく、遺伝的特質を異常とする表現に異論もあり、日本遺伝学会は2017年に「色覚多様性」と用語を改めた。
 以前は学校の健康診断で色覚検査は必須項目とされたが、国は「差別につながる」として03年度から廃止した。しかし、
自分の色覚の特徴を知らないまま仕事の採用試験での検査で初めて気付く人もいる。同NPOによると、パイロットや電車の運転士などの特定の職業に就けないこともある。
 文部科学省は14年、保護者らの同意を得た上で、学校で検査するよう促す通知を出している。